1  患者=「消費者」、そういうイメージありますか?

  「医は仁術。医療の世界は銭勘定に尽きるもんじゃあない!」というイメージは、確かに昔から根強くあります。

 まぁ、テレビドラマなんかを見てても、よくありますよね。

 「金と名誉と地位」に意地汚くこだわるのが「悪い医者」、その反対に、病院内や大学では出世しないけど、患者には人気があって腕もいい「良い医者」(しかもイケメン)、というような(ステレオタイプな)キャラ設定は、まだまだ多い気がします。

  ドラマの話はおくとして、裁判の現場に代理人として身を置いていると、「美容医療の患者=特別な保護が必要な消費者でしょ?」という素朴なイメージのされ方は、間違いなくあります。
 裁判官によって濃淡はあるにしても、です。

 ここでのミソは、「美容医療の」患者とわざわざ限定していることです。

 ここには、緊急性が特にない、いわば「ぜいたく品」としての美容医療を、原則自由診療で高いお金を支払って受診する患者なんだもの、何かトラブルが起こった際には特別に保護されるべきでないのか? という問題意識が背景にあります。

 私の感じるところ、こういう理解や問題意識というのは、年々強まってきています。

 毎号、けっこう興味深い特集で攻めてくる季刊誌『現代消費者法』。

 今回のエントリーのような特集が組まれるのも、まさにそのような傾向の表れなんでしょうね。

2  手嶋豊「医療をめぐる法制度概要と患者・消費者概念の交錯」の紹介(特集第1論文)

 筆者の手嶋先生は、現在の医療法研究の最前線を走るお一人でいらっしゃいます。
 ご論文もご講演も、いつも手堅く整理された内容を発表されていらっしゃいますね。

  今回のエントリーとの関連でいえば、手嶋論文の要点は、以下の記述によく表れているのではないでしょうか。

「上述のように、医療はさまざまな目的で実施されるものであり、生命身体の保存に不可欠ではないが生活の質を改善するのではないかと期待される一連の医療、すなわち、美容医療や眼科領域のレーシック手術、歯科診療の一部のように、患者のみの判断で実施の要否が決定できる分野もある。これらの領域での処置は、医療専門家の判断が実施の可否についての出発点だが、最終的判断は被施術者自身が決する。ここでは「消費者」というくくりがより馴染みやすい。

  このように、医療の提供と受診に多様性が現れるところでは、患者を消費者と扱う積極的意義を認めることができよう。」

   まさにご指摘の通りであり、ここでは近時の「美容医療の患者=消費者」との図式が成り立つ理由が端的に示されていると思います。

 論文では、このあと、そのような「消費者としての患者」を保護するための諸制度について、1)医療の質の確保、2)医療へのアクセスの確保と医療費への規制、3)医療被害からの回復という観点から、コンパクトに説明しています。

3  高嶌英弘「医療契約の特質および構造と消費者保護」の紹介(特集第2論文)

  続く第2論文は、医療の場における患者を消費者と捉える立場からの研究を早くから進めておられる、高嶌先生によるものです。

  医療契約の特質(侵襲性、救命性、専門性、サービスと身体との直接関連性、手段債務性)に照らして、医療契約の成立・内容・終了という各段階においてどのような特殊性が見られるのかを概観した論文です。
  各段階での法的な論点がわかりやすく整理されており、参考になります。

  その中で、私が注目したのは、次の2点です。

1)医療契約に消費者契約法を適用した裁判例は、現在(2015年2月)のところ、東京地裁平成21年6月19日判決(判例時報2058号69頁)だけである。
  今後は、患者保護のために、消費者契約法を活用していく必要がある。

2)医療サービスの広告は、現在、不当景品類及び不当表示防止法(景表法)、医療法6条の5、厚労省告示や医療広告ガイドライン等により規制されている。
  しかし、医療機関のホームページ上の宣伝は、現在のところ事実上無制約となっており、今後は適切な規制を考えるべきである。

  上記の2点とも、その結論には賛否あるところでしょうが(私は、無制限な拡大には躊躇を覚えます)、この先このような方向性で議論が進んでいくこと、つまり、患者を「消費者」と位置づけ、消費者保護立法の適用をもって患者の利益を確保していくという潮流は、今後もますます進んでいくものと思われます。

  実際に、現行の法令について、患者保護の観点からの法改正が各所で議論されているようです。

  仮に法改正がなされるとなれば、美容外科クリニックの診療活動に与える影響も大きいでしょうね。

  今後も、法改正の動きについては、その都度ご報告していきたいと思います。

 ということで、今回のエントリーは、「消費者保護」の波が、美容医療の世界にもますます押し寄せてくるぞ、というレポートでした。

 なお、 今回の特集では、他にも小田耕平「美容医療をめぐる判例」、末吉宜子「美容医療をめぐる消費者被害の実情と救済策ー法規制の現状と課題ー」、鈴木利廣「医療事故調査制度の意義と課題」といった諸論文が掲載されております。

  これらの紹介は、またの機会ということで。