1  即日手術、そんなの当たり前!?

今回は、いわゆる「即日手術」の是非について取り上げます。

即日手術とは、初診日にカウンセリングを済ませた後、その日のうちに手術を実施することですね。
(「日帰り手術」等と言われる場合もあるようです)

この「即日手術」、現場で、日々、美容医療に携わっておられる医師の先生方と、医療現場の実情に不案内な法律家とでは、イメージ・受け止め方というものが全く違うものなんですね。

これ、美容クリニックの先生方としては、ある意味、昔から当たり前というか、「こっちから無理やり勧めたのではなくて、患者さんも希望していて医学的にも特に問題ないのであれば、即日手術とします」という考えは、まだまだ多いと思うのです。

だって、いくら初診日とはいえ、カウンセリングで主訴をよく聞き取って、手術内容や適応、手術の費用、リスク等もわかりやすく十分に説明し、なおかつ患者さん自身も強く当日の手術を希望されていて体調も問題ないというときには、即日手術にして何が悪いの?というところだと思うんです。

少なくとも、「どんなケースでも、うちでは即日手術は絶対にやらない!」という先生は、私の個人的な感覚では少数派だと思うのです。

2  法律家は、「即日手術→けしからん!」と思う

他方で、法律家は、どう感じるでしょうか。

ごく平均的な弁護士が素朴に抱く感覚を率直にいえば、「即日手術⁉︎  問題あるに決まってるだろ!」と感じる傾向が強いと思うんです。
患者側に立つ弁護士であれば、なおさらです。

かくいう私も、美容医療・美容整形の案件に携わりはじめた頃は、そう思ってました。
「えっ? 先生、その日に手術しちゃってるんですか⁉︎」みたいな。

このあたり、法律家のアタマの働き方としては、

美容医療 → 自費負担での高額な治療費、しかも身体への侵襲あり
→ 後遺症等の可能性もあり → 患者のリスク大きい → だけど、緊急性はない
→ そうであれば、患者が慎重に判断できる機会を与えるべし
 
と、流れていくんですね。

だからこそ、美容整形手術に過誤があったとして患者から賠償請求の訴訟を起こされた場合、申し立てた原告の弁護士は、これを必ず問題にしてきます。

今は医療機関側専門で訴訟活動してる私からすれば、「あ、はいはい。やっぱ主張してきましたか」という感じです。
(法廷での証人尋問でも、よく追及されるところです)

但し、裁判所の現在の傾向を見ていると、即日手術をしたこと自体を即アウトとまでは考えてはいないと思います。

もちろん、ケースバイケースで、術前の説明が不十分だったり、露骨な勧誘みたいなものがあったりすると、即日手術としたことが問題であったと認定する場合もあるんでしょうけどね。

ただ、そうとはいえ、美容医療の現場の実情にそこまで詳しくない裁判官(=大半の裁判官)は、訴状を読んで、「えっ?」と感じる可能性は少なからずあると思います。

3  今後は、「即日手術」はできるだけ避けたい

私自身は、患者・クリニック双方が十分納得しているのであれば、即日手術は双方ともにメリットがあり、必ずしも違法ではないと思っています。

しかしながら、そうも言ってはいられない状況になりつつあります。

なぜかというと、平成27年7月7日に消費者委員会が「美容医療サービスに係るホームページ及び事前説明・同意に関する建議」を公表しました。
(その大まかな説明は、こちらの記事 【← すいません、近日中にアップします!】 で紹介しています)

この「建議」では、なんと、「消費者トラブルの原因となりやすい即日施術を厳に慎むべきことを徹底すること。」とまで言いきっているのです!(建議事項2)
実は、この「建議」に至る以前より、同様の趣旨は各所で言われてきていたという事実があります。

その中で、我が国の消費者政策のお目付け役である消費者委員会がここまで強く主張しているのであれば、近い将来、関係法令の改正、もしくは何らかのガイドラインの策定等(流行りの用語法でいえば「ソフト・ロー」でしょうか)の形で、正面から「即日手術の原則禁止」が定められる確率は、非常に高いといえます。

仮にそうした状況となれば、いくら患者が「その時は」心から同意していた手術でも、あとでトラブったときに、「あ、禁止されてる即日手術をやってる!」と必ず問題にされます。

以上のような情勢ですから、結論を言ってしまえば、もうこれからは、即日手術は、原則やるべきではないでしょう。

と言っても、難しく考える必要はないんです。

今まではカウンセリングの後そのまま手術していたのを、「じゃあ、ご家族ともよく相談して、やっぱり手術したいということならば明日また来てね」とすればいいんですから。

そう言うと、先生方の中には、「う~ん、でも、家帰って誰かに相談すると、やっぱやめます、という患者が出てくるんだよなぁ。。。」と感じる向きもあるかもしれません。

でも、それで良いんです。

手術するのか・しないのか、その段階で迷っていて、結局、エイヤ!で手術を受けた患者さんというのは、後で不幸にして何らかの問題が生じたときに、大きくこじれるケースが多く見受けられます。
お互いのためにも、「迷った末に考え直すというなら、考え直してもらったほうが良い!」のです。

なお、いちおう理屈上は、「即日手術をどうしてもしなければならない緊急性がある」というケースも考えられます。
(緊急性を要しない場合が大半である美容整形手術の場合に、どこまで現実的にあり得る話かはわからないのですが)

もしこのようなケースに遭遇し、やむなく即日手術を実施するとした場合には、後日のトラブルを防いでクリニックを守るためにも、以下の点をご注意頂きたいと思います。

 1)即日手術の適応ありと判断した医学的な根拠、検査データ、患者の主訴・希望等の諸事情につき、できる限り詳細に、カルテに記載しておくこと。

 2)患者から、「即日手術は原則禁止であるところ、◯◯という事情から、医師から十分な説明を受けたうえ、自分からも希望したうえで即日手術に同意する」との「同意書」に署名をもらうようにすること。

このような場合は、そのケースの特殊な事情について、必ずカルテに記載しておくことが大変重要です。

普段からのこの一手間が、あとでクリニックを窮地から救ってくれます。

【*法律専門家向けの若干の補足】

将来的に即日手術が正面から禁止された場合、それにもかかわらず実施された即日手術が違法性を帯びることは当然でしょう。

では、訴訟物が債務不履行に基づく損害賠償であれ不法行為に基づくものであれ、「即日手術をしたことが違法」という点は、それぞれの要件事実との関係で、どのように位置づけられるのでしょうか。

個人的には、即日手術を実施して訴訟提起されたケースは、ほぼそのまま、術前の説明義務違反(患者における適切な自己決定にとって十分といえる情報が提供されなかった)が存在するケースと実質的に重なってくると推測しています。
消費者委員会の建議事項においても、即日手術の禁止は事前説明の枠組みの中で言及されています。
(後遺症等の不具合が発生せず、かつ説明義務違反も問題とならないケースで、単に「即日手術をしたことが違法」というだけで提訴してくることは、およそ考えにくいと思われます)

そうなると、「即日手術を実施したこと」ということが独立した注意義務違反になるのではなくて、説明義務違反を基礎づける事情の一つとして「即日手術が実施されていること」との事実が位置づけられるという理解のほうが自然でしょう。

この場合、「即日手術が実施されていること」という事実の重み(説明義務違反の認定にとってどれだけ重視されるか)は、これが「正面から禁止されていない場合」と「されている場合」とでは、後者の方が説明義務違反の認定にヨリつながりやすいということは言えそうです。

まぁ裁判規範として見ればその程度のものであるのかもしれませんが、より重要なのは、行為規範的な観点から即日手術を禁止するという側面なのでしょうね。

でもそうなのであれば、「即日手術の禁止」という現行の診療実務からすれば(若干)乱暴とも思える規制方式よりも、患者のための説明義務の実質的な拡充という形での規制に力を入れたほうが、よりお互いにとって好ましい環境整備とも思えるのですが。。。(などと揚げ足を取ってみる)