JSASによる声明が出ました

(相当)久々の更新で、失礼いたします。

以前よりフィラー(充填剤)の生体注入に関する安全性については様々な意見が出ており、各美容クリニックでは、先生方ご自身のお考えと患者さんの希望などを踏まえ、対応されてきたところと思います。

各部位における施術方式の選択、ないしはフィラー選択の優劣については、JSASの昨年5月のシンポジウムにおいても、各パネリストの先生が得意とされるオプションに基づいて、報告と議論があったところかと思います。

そのような中で、JSAS理事会が2017年3月17日付けで、「ポリアクリルアミド・フィラー使用についての注意」という声明を示すに至りました。

今回の声明の内容というのは、以下のようです。

 

◯ 我が国のクリニックにおいてもアクアフィリングならびにアクアリフトを用いた豊胸術が行われているが、これら2製品は、FDAでは承認されていないが、顔面に対する使用のみKFDA(韓国食品医薬品安全庁)で承認されている。

◯ 韓国美容外科学会が、Archives of Aesthetic Plastic Surgery 誌2015 年10 月号に掲載された論文を受けて、これまでの乳房に対する様々な注入物によって引き起こされた合併症の懸念から、これらの懸念が解消されるまで本製品の使用に反対する主旨を声明として出した。

◯ この見解を踏まえ、美容外科学会(JSAS)理事会において、「少なくとも現時点においてアクアフィリングならびにアクアリフトを用いた豊胸術を推奨することはできない。現在この治療法を行っている医療機関においては、これらの現状を十分理解し、かつ長期的な経過観察を行っていくと同時に、その結果を公表していく必要がある。
 また、治療を行う上では上記のような懸念すべきリスクを含めた十分なインフォームド コンセントを行うことが重要である 」という見解に至った。

 

アクアフィリング・アクアリフトを今後どう取り扱うか?

JSASによる上記の声明は、一見すれば、アクアフィリングならびにアクアリフトを用いた豊胸術を推奨することは少なくとも現時点ではできないが、インフォームド・コンセントを十分に行えば、今後もアクアフィリングやアクアリフトを選択して施術することも可能だというように読むこともできます。

しかしながら、クリニック側専門の弁護士としての立場からは、もしドクターの先生から相談を受けたら、私個人としては、今後の使用は絶対にお勧めできませんね。
インフォームド・コンセント云々とは関係なくして。

その理由として、2つ挙げたいと思います。

1つは、もし今後アクアフィリングもしくはアクアリフトを使用して何らかのトラブルが発生して裁判に発展した場合、患者側弁護士は、今回の「声明」を医師の注意義務認定に関する証拠の一つ、しかも重要証拠の一つとして提出してくると思うのです。

「学会が使用を推奨しないような不適切なフィラーを使用せずに他の方法を選択すべきであったにもかかわらず、強行した。その結果が今回のような損害の発生につながっている!」とね。

このような客観的証拠が出されると、私の経験では、裁判所は、「権威ある学会がこのような声明をわざわざ出しているようなシロモノなのか。だったら、本来使っちゃいけない充填剤なんだな」と素朴に理解する可能性が非常に高いと感じます。

裁判所は、一般の人と比べて科学的・医学的に高度な知識を特に持ち合わせているかと言ったら、決してそういうわけではない(たとえ、医療集中部所属の裁判官であっても、です)ので、権威ある学会が声明を出しているとなれば、その内容をそのまま素朴に受け止め、判決に反映させるというのが通常の思考方法です。

よって、このような点から見たクリニック側のデメリットというのがひとつ。

2つめは、これもこれまでの経験からの感触ではありますが、どんなにインフォームドコンセントに意を尽くし、術前に十分なリスク説明を行っていた場合でも、重大な結果・損害が発生してしまっている事案においては、裁判所は、最終的には、医師の「揚げ足を取る」と感ぜざるをえないような内容をもって医師の過失を認定したり、説明義務違反を認定してくる可能性も高いと思われます。

私がこのブログの各所で解説しているように、医師における説明義務、特に美容外科・美容医療サービスにおける説明義務の範囲や程度については、不明瞭極まりません。

いざ後日に裁判になった場合に、目の前のこの患者さんに対してどこまでの説明をすれば免責されるのか、という見通しが非常に立ちにくいのです。

したがって、「声明」以後のアクアフィリング・アクアリフトの使用は、この面から見ても相当リスキーだと言わざるを得ません。

以上のように考えますと、現状でこれだけ広く用いられているフィラーであり、営業上の考慮という面ではいろいろ考えるところがおありかもしれませんが、弁護士の立場としては今回の声明に素直に従っておくのが無難であり、得策ではないかと考えます。